日本の液化天然ガス(LNG)需要は近年急激に落ち込み、世界市場の大きな変化を示している。かつてはLNGの消費者としてのみ見なされていた日本の電力・ガス会社は、現在では海外でのマーケティングや転売にますます注力し、世界のサプライヤーと直接競争するようになりつつある。
IEEFAの分析では、日本の四大電力・ガス会社(JERA、東京ガス、大阪ガス、関西電力)が抱えるLNGの過剰契約は、今後数年でさらに拡大する可能性がある。これらの電力・ガス会社が海外での成長を重視するのは、日本国内のガス市場で事業機会が減少していることに起因する。
柔軟に転売可能な余剰LNGを抱える日本の電力・ガス会社は、アジアの新興市場での需要開拓を図っている。日本およびその他の主要市場での需要が減少するにつれて、LNGの価格は2020年代後半にかけて下落すると広く予想されている。LNGを販売する日本の電力・ガス会社はますます増えているが、LNG販売事業者は今後、販売利益の縮小や赤字への転落といった事態に直面する可能性がある。
日本は過去50年間の大半にわたり、液化天然ガス(LNG)の世界最大かつ最も重要な買い手であり続けてきた。日本企業はLNG産業の基盤形成に極めて重要な役割を果たし、信用力の高いLNG購入契約を提示することで、グローバルサプライチェーンへの長期的な投資を支えてきた。
しかしながら、日本のLNG需要は近年急激に落ち込み、それは世界市場の大きな変化を示している。かつてはLNGの消費者としてのみ見なされていた日本の電力・ガス会社は、現在では海外でのマーケティングや転売にますます注力し、世界のサプライヤーとより直接競争するようになっている。LNGの転売を目指す日本企業は、世界のガス供給プールからより多くの量を消費するのではなく、むしろ数年後に迫る世界的な供給過剰を助長する恐れがある。
LNG転売を目指す日本企業は、世界のガス供給プールからより多くの量を消費するのではなく、むしろ数年後に迫る世界的な供給過剰を助長する恐れがある。
これらの電力・ガス会社が海外での成長を重視するのは、日本国内のガス市場で事業機会が減少していることに起因する。再稼働した原子力発電施設による発電量の増加と再生可能エネルギーの設備容量の追加が、国内の電源構成におけるLNGの必要性を低下させている。長期的には、ネットゼロ排出目標と人口動態が、国内での事業拡大に対する厳しい制約となっている。同時に、2017年以降、日本の従来の電力・ガス会社は、ガス・電力小売の自由化により、市場シェアを失ってきた。
一部の企業にとっては、LNG購入契約で取り決めた輸入量を下回るペースで、消費者需要が減少している。その結果、IEEFAは、日本の四大電力・ガス会社(JERA、東京ガス、大阪ガス、関西電力)が抱えるLNGの過剰契約量が、今後数年で1,200万トン近くまで増加する可能性があると見ている。さらに、仕向地制限のない契約が日本のLNG契約全体に占める割合は、2030年まで増加し続ける見込みであり、企業は海外での転売に対して一層の柔軟性を持つことになる。
柔軟に転売可能な余剰LNGを抱えるこれらの企業は、アジアの新興市場での需要開拓を図っている。これらの企業は、南アジアおよび東南アジアで、再ガス化基地、LNG火力発電所、ガス配給インフラを含む中流・下流のガス部門に多額の投資を行っている。政府の政策は、LNG取引量を拡大し海外での需要を開拓するという企業戦略と整合しており、日本企業は国内需要が減少しているにもかかわらず、新たなLNG購入契約の交渉に積極的に取り組んでいる。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のデータによれば、日本企業による第三国向けのLNG販売量は、2018年度の1,497万トンから2021年度には3,800万トンへと2.5倍に増加した。国内での販売量は減少したものの、日本企業によるLNGの取引量は同期間中に増加している。現在、海外に販売されているLNGの量は、国内消費量のほぼ半分に達している。
この動向は、世界のLNG輸出業者とLNG産業全体に影響を及ぼす。第一に、多くの輸出業者は、日本がさらなるLNGを必要としているという誤解の下で、新規液化設備への投資を正当化し続けている。実際にはその逆であり、日本企業は今後ますます、将来有望な市場における買い手を巡る競争に加わり、LNGを消費する側ではなく供給側に回る可能性がある。日本の調達分と第三国向けの転売分をどちらも需要として計上する二重カウントのリスクは、新たな供給インフラへの不必要な投資を促進する恐れがある。
第二に、日本の電力・ガス会社によるLNG販売の増加は、市場に新たなLNG供給が大量に流入する時期と重なる。2026年には、世界で過去最大規模の新規輸出設備容量が追加される予定である。日本およびその他の主要市場での需要が減少するにつれて、LNGの価格は2020年代後半にかけて下落すると広く予想されている。LNGを販売する日本の電力・ガス会社はますます増えているが、LNG販売事業者は今後、販売利益の縮小や赤字への転落といった事態に直面する可能性がある。こうした事態は、過去の供給過剰期にも日本の転売業者に起きており、LNG取引に伴う財務リスクを示している。
海外でLNGを販売する日本の電力・ガス会社は、差し迫る世界的な供給過剰の中で、特有の課題に直面する可能性がある。一昔前に締結された日本のLNG購入契約の大半は、原油価格指標に連動した価格公式を採用している。その多くが、比較的高いレートで設定されており、スポット価格が下落する局面では、経済的に不利となる可能性がある。したがって、契約済みのLNGカーゴをスポット市場で転売しようとする企業は、スポット価格が原油連動型の契約価格を下回った場合、財務リスクにさらされる可能性がある。米国ヘンリーハブ天然ガス価格などの、代替価格指標に契約を分散することは、原油連動リスクを低減するかもしれないが、日本の電力・ガス会社は他の多くの要因の影響を受ける可能性がある。
本報告書は、日本のLNG市場およびその主要プレーヤーの近年の動向について詳細に分析するものである。第I章では、日本におけるLNG需給動向、主要な電力・ガス会社の契約状況および新興アジア市場への進出状況の概要を示す。第II章では、電力・ガス会社が海外での成長機会を追求する要因となっている、現在の日本の国内市場の傾向について詳述する。第III章では、仕向地が柔軟に設定されているLNGの過剰契約分に、電力・ガス会社がどう対処し得るかについて解説する。第IV章では、日本の主要なガス・電力会社の契約状況と、特に南アジアおよび東南アジアを中心とした海外市場への進出に関する事例研究を紹介する。第V章では、日本がLNG取引にますます重点を置くことによる潜在的な影響について分析する。
著者について
サム・レイノルズ
サム・レイノルズは、エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)の研究主任であり、新興アジアにおける天然ガスおよび液化天然ガス(LNG)インフラ開発に伴う経済・財務・気候リスクを専門としている。
同地域における再生可能エネルギーへの移行、天然ガス部門における座礁資産リスク、および輸入LNGへの地域的依存の高まりに伴うマクロ経済的リスクに関する複数の研究報告書を執筆している。
クリストファー・ドールマン
クリストファー・ドールマンは、アジア地域のLNG/ガススペシャリストであり、アジア全域における天然ガスのバリューチェーン開発がもたらす経済、財務、気候への影響を専門としている。過去には市場アナリストおよびエネルギーモデラーとして、政策、エネルギー市場、技術の進展がエネルギーシステムをどのように形成し、エネルギー安全保障に影響を与えるかを分析していた。
翻訳:杉田玲奈
監訳・編集:長田大輝(FoE Japan)