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コスト、供給、導入時期が課題となる日本のアンモニア混焼戦略

July 09, 2026
Walter James

Key Findings

石炭火力発電所におけるアンモニア混焼は、日本の電力部門の脱炭素化戦略における中核的な施策の一つである。政府は、2030年までに混焼率20%、2030年以降は50%以上、2050年までに100%混焼を達成する目標を掲げている。これらの目標の実現に向けて、アンモニアサプライチェーンの構築と発電用途での利用拡大を促進する4つの補助金制度が設けられている。

日本最大のアンモニア供給源となることが見込まれている米国のブルーポイント製造事業では、建設コストの上昇が続いており、アンモニア混焼による発電コストは、日本国内で既に導入されている再生可能エネルギーよりも高くなる可能性がある。IEEFAの分析によれば、20%アンモニア混焼の発電コストは、陸上風力発電と比べて145〜220%、事業用太陽光発電と比べて240〜464%高くなると見込まれる。

補助金による支援にもかかわらず、アンモニア混焼の導入は日本政府が想定するスケジュールより遅れている。これまでに20%混焼を商業規模で実証した石炭火力発電ユニットは1基のみであり、2027年度から2030年度までの間に同水準へ到達する予定のユニットも4基にとどまる。また、日本が将来必要と見込むアンモニア需要は、現在の世界のアンモニア貿易量を上回っており、将来的な供給確保に制約をもたらす可能性がある。

日本がアンモニア関連補助金に充てている予算は、再エネ、蓄電池、電力系統など、既に技術的・商業的に確立された技術へ投資した方が、より高い効果をもたらす可能性がある。これらの技術は企業や家庭のエネルギーコストを引き下げるとともに、エネルギー安全保障を強化し、日本の脱炭素目標をより安価かつ確実に達成するための道筋を提供する。

石炭火力発電所におけるアンモニア混焼は、日本の脱炭素ロードマップにおける重要な柱の一つとなっている。日本政府は石炭火力の段階的廃止を目標としておらず、既存の石炭火力発電所からの二酸化炭素排出量を削減する手段としてアンモニア混焼を位置付けている。この戦略は、アンモニアサプライチェーンおよび関連技術の開発を促進する補助金制度によって支えられている。

将来的に石炭・アンモニア混焼で必要となるアンモニアの需要を満たすために、大規模な新規供給源の確保が不可欠となる。その中でも最も重要な供給源候補の一つが、米国ルイジアナ州で開発中のBlue Point製造事業(以下「ブルーポイント」)である。同プロジェクトでは、天然ガスを主要原料とし、二酸化炭素回収・貯留(CCS)によって製造時に発生するCO₂を回収・貯留する「ブルーアンモニア」の生産が計画されている。日本企業2社が同プロジェクトに出資するとともに、事業者とのオフテイク契約を締結している。日本へ輸入されたアンモニアは、主に石炭火力発電所における混焼燃料として利用される見込みだ。

しかし、この戦略には依然として大きな課題が残されている。米国ガルフコースト地域でCCSを組み合わせてブルーアンモニアを生産するには多額のコストがかかるため、日本国内で既に普及している再生可能エネルギーに比べると競争力は限定的となる。また、アンモニア混焼を事業として成立させるためには、多額の補助金が不可欠であり、その負担は最終的に消費者の電気料金を押し上げる可能性がある。さらに、日本がアンモニア混焼目標の達成に必要な量のアンモニアを安定的に輸入できるかどうかも、不確実である。

日本が長期的な脱炭素化の方向性を見直す中で、アンモニア混焼への継続的な投資が、既に商業化された代替技術に比べ、最も効果的な選択肢であるかを改めて検証する余地がある。再エネ、蓄電池、そして電力系統への投資を拡大することは、温室効果ガス排出削減、エネルギー安全保障の強化、企業および家庭のエネルギーコストの低減にも貢献し得る。

日本のアンモニア戦略とブルーポイントの重要性

日本政府は、2021年6月に2050年カーボンニュートラル目標を表明して以来、アンモニアを脱炭素戦略、とりわけ電力部門における重要な柱の一つとして位置付けてきた。2026年4月には、2030年までに国内の石炭火力発電所でアンモニア混焼率20%を達成し、2030年以降は50%以上、2050年までに100%混焼へ移行するという目標を改めて確認した

これらの目標およびより広範な脱炭素化の取り組みを支援するため、政府はアンモニアおよび水素の製造・利用を促進する4つの補助制度を実施している。2025年度のこれらの制度の予算総額は5,860億円となる。

こうした目標および補助制度を受け、日本企業は国内外でアンモニアサプライチェーン全体にわたるプロジェクトの推進や技術開発を進めている。その中でも最も重要なのが、米国ルイジアナ州で開発中のブルーポイントである。経済産業省は同プロジェクトを、「日本初の大規模低炭素アンモニアサプライチェーンプロジェクト」と位置付けている。

ブルーポイントは、世界有数のアンモニア製造事業者であるCF Industriesが開発を進める、CCSを組み合わせた年間生産能力140万トンのアンモニア製造施設である。日本企業ではJERAが35%、三井物産が25%を出資しており、2025年4月に最終投資決断を行なった。生産開始は2029年を予定している。

ブルーポイントは、日本最大のアンモニア混焼事業へ燃料を供給する計画となっていることから、日本のアンモニア戦略において極めて重要な位置を占めている。JERAは2030年2月から、年間492,144トンのアンモニアをブルーポイントから調達し、その大半を最大出力410万キロワット(kW)の日本最大の石炭火力発電所である碧南火力発電所で使用する見込みである。JERAは2027年度に碧南火力発電所4号機で20%アンモニア混焼の商業運転を開始する計画であり、ブルーポイントで生産されるアンモニアの一部は欧州およびアジアにも供給する予定である。

出力100万kWの碧南火力発電所4号機は、日本で唯一、商業規模でアンモニア混焼を実証した石炭火力発電設備である。同設備では2024年4月から6月にかけて20%アンモニア混焼実証試験を完了した。JERAは2028年度までに2基の発電設備で混焼率50%以上を達成し、2040年代には100%アンモニア専焼へ移行することを目指している。同社は、碧南火力発電所におけるアンモニア混焼実証の成功を脱炭素戦略の中核と位置付けており、同発電所で得られたデータを削減貢献量(avoided emissions)の算定にも活用している。

ブルーポイントで生産されるアンモニアは、碧南火力発電所以外の国内施設にも供給される予定である。三井物産は2031年1月から、北海道電力苫東厚真火力発電所および複数企業の工業炉向けに年間28万トンのアンモニアを輸入する計画だ。一方、北海道電力は2030年度に苫東厚真火力発電所の1基で20%アンモニア混焼の商業運転を開始し、2035年以降は混焼率を50%以上へ引き上げ、2040年代には100%専焼へ移行することを計画している。

日本政府による補助制度は、ブルーポイントからのアンモニア調達を強力に後押ししている。2025年12月には、JERAと三井物産が、ブルーポイントから輸入するアンモニアを対象とした「価格差支援制度」の支援対象として採択された。また2026年3月には、碧南火力発電所および、苫東厚真火力発電所が立地する北海道苫小牧市の2カ所のアンモニア輸入拠点が、「拠点整備支援」による支援対象に選定された。なお、これら補助金の支給額は公表されていない。

アンモニア混焼は大きなコスト上の課題に直面している

日本のアンモニア混焼戦略は、低炭素アンモニアの製造および輸送に多額のコストを要することから、大規模な補助金への依存が避けられないとみられる。こうしたコストは、アンモニア混焼発電の国内における他の発電技術に対する競争力を低下させる可能性がある。

コスト上昇圧力は、サプライチェーンの上流段階からすでに顕在化している。ブルーポイントの推定設備投資額は、計画発表以降、一貫して増加を続けている。CF Industriesが三井物産との合弁事業として同プロジェクトの開発計画を初めて公表した2022年時点では、総事業費は20億米ドル超と見積もられていた。2023年には、人材不足に伴う労務費の上昇やインフレ圧力の影響で、その見積額は30億米ドルへ引き上げられた。その後もコストは増加を続け、2025年には推定事業費は40億米ドルに達した。CF Industriesは2026年に建設へ着手し、2029年の完成を目指している。

こうしたプロジェクトのコスト増加には、米国の建設業界全体に広がるインフレ圧力も拍車をかけている。2026年5月の米国における建設資材価格は、関税措置およびイラン紛争を背景とした原油価格上昇の影響を受け、前年同月比で約10%上昇した。同時に、アンモニア製造の主要原料である米国産天然ガスの価格は2016年以降、変動性が高まっており、今後さらに上昇することが見込まれている。

CCS付きのプロジェクトも同様に、コスト増加と開発の遅延が相次いでいる。CF Industriesとそのパートナー企業は、自熱改質(Autothermal Reforming:ATR)によってアンモニアを製造する計画である。ATRは、天然ガス、酸素および水蒸気を燃焼器内で混合し、アンモニアおよび水素を製造するプロセスであり、その過程で発生するCO₂はCCSによって回収・貯留される計画となっている。しかし、エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は、さまざまな地域・分野におけるCCSプロジェクトで、建設費の超過や計画の遅延が発生していることを確認している。また、世界的に見ても、商業規模のATRによるアンモニアまたは水素製造施設で、製造過程で排出されるCO₂の回収に成功した事例は存在しない。CF Industries自身も、CCS技術がCO₂の回収・輸送・貯留に失敗した場合、低炭素アンモニアの製造、認証および販売が困難になることを認めている

こうした高コスト化とコスト上昇は、最終的には日本国内のアンモニア価格にも反映されることになる。政府がアンモニアの製造や電力部門での利用を補助したとしても、アンモニア混焼による発電コストは、既存の代替電源と比べて大幅に高くなる見込みである。また、CCSに伴う技術的課題を踏まえると、アンモニア混焼によるライフサイクル排出量も当初の想定を上回る可能性がある。

経済産業省が公表した最新の発電コスト検証によれば、2023年時点で事業用太陽光発電および陸上風力発電の発電コストは、それぞれ10.9円/kWhおよび16.3円/kWhとなっており、2040年時点で想定される20%アンモニア混焼の発電コストをすでに大きく下回っている。経済産業省の試算を基にIEEFAが分析した結果では、20%アンモニア混焼の発電コストは、アンモニアの製造方法や輸入・国内製造の違いによって幅はあるものの、陸上風力発電より145〜220%、事業用太陽光発電より240〜464%高くなると見込まれている。

 

 

経済産業省は、輸入ブルーアンモニアのコストは国内産グリーンアンモニアをわずかに下回ると見込んでいるものの、それでも事業用太陽光、陸上風力、洋上風力、さらには地熱発電と比較してコスト競争力は劣ると予測している。また、Bloomberg New Energy Financeは、米国で生産されるアンモニアに適用される45Q税額控除を考慮しても、米ガルフコーストから輸入されるブルーアンモニアのコストは2050年まで高止まりすると見込んでいる。

ブルーポイントから輸入されるアンモニアを利用する計画であるJERAの碧南火力発電所および北海道電力の苫東厚真火力発電所は、このような高コスト構造を象徴する事例である。

アンモニア混焼への補助金は、特に長期脱炭素電源オークションの枠組みにおいて、消費者の電気料金を押し上げる可能性もある。長期脱炭素電源オークションの財源は、小売電気事業者が電力広域的運営推進機関へ支払う容量拠出金によって賄われており、その負担は最終的に電気料金を通じて消費者へ転嫁される可能性がある。第1回および第2回オークションでは石炭火力発電事業者の応札結果が低調だったことから、政府はオークション制度を見直し、2025年度以降はアンモニア混焼を含む火力発電設備の改修案件を優遇する制度へ改めた。その結果、アンモニア混焼のように経済性に乏しい電源への補助負担は、最終的に電気料金の支払いを通じて消費者が負担することになるかも知れない。

アンモニア混焼のコストやライフサイクル排出量に対する懸念は、企業の電力調達方針にも影響を及ぼし始めている。2025年3月に公表された技術要件の改定において、事業活動で使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す企業連合であるRE100は、アンモニア混焼を含む石炭混焼による電力を再生可能電力として認めないことを決定した。この変更は2027年の情報開示サイクルから適用され、日本に本社を置く90社以上、ならびに日本国内で事業を展開する220社超の海外企業に影響を及ぼすことから、アンモニア混焼によって発電された電力に対する需要を抑制する可能性がある。

日本のアンモニア輸入需要を満たすことは困難

コスト面に加え、日本のアンモニア混焼戦略の実現には、必要となるアンモニア供給量そのものが大きな課題となる。現在、日本のアンモニア消費量は年間約108万トンであり、その大半は窒素原料や各種産業用途に使用されている。碧南火力発電所4号機で20%アンモニア混焼を実施するためには、年間約50万トンのアンモニアが必要となり、この需要は2029年以降、ブルーポイントから供給される計画である。この供給量だけでも、日本の現在の年間アンモニア消費量のほぼ半分に相当する。

仮に日本の一般電気事業者が運営するすべての石炭火力発電所で20%アンモニア混焼を実現した場合、年間約2,000万トン(20MTPA)のアンモニアが必要となる。これは、2019年における世界全体のアンモニア貿易量にほぼ匹敵する規模である。アンモニア混焼が抱える経済性の課題を踏まえると、日本の目標達成に必要な規模のアンモニアサプライチェーンを構築することは、現実的には容易ではないと考えられる。

こうした課題を背景に、経済産業省は2050年時点のアンモニア需要見通しを下方修正した。2021年に公表した当初の見通しでは、アンモニア混焼戦略の実現に向け、2050年までに燃料アンモニア消費量を年間3,000万トンとすることを目標としていた。しかし、2023年に公表した改訂見通しでは、この需要見通しは年間約2,000万トンへと引き下げられている。

アンモニア混焼戦略を見直す余地はある

日本のアンモニア混焼戦略は、経済性と供給の両面で大きな課題に直面している。ブルーポイントのようなプロジェクトで製造されるブルーアンモニアは高コストとなることが見込まれ、日本国内における既存の発電電源と比べて競争力は限定的に成る可能性が高い。また、アンモニア混焼を事業として成立させるためには、多額の補助金が不可欠であり、その費用は最終的に電気料金を通じて国内の消費者が負担することになる。こうした要因は、国内におけるアンモニア混焼由来の電力需要を抑制するおそれがある。さらに、日本が目標達成に必要な量のアンモニアを安定的に調達できるかどうかについても、依然として不透明である。

政府目標と実際の導入計画との乖離が拡大している現状を踏まえると、日本にはアンモニア混焼戦略を改めて見直す時間的余地がなお残されている。政府は2030年までにすべての石炭火力発電所で20%アンモニア混焼を実現することを目標としているが、2027年度から2030年度までの間に20%混焼で商業運転を開始する予定となっているのは4基の石炭火力発電ユニットにとどまっており、導入ペースは政府目標を大きく下回っている。

こうした課題は、日本の脱炭素戦略全体の中でアンモニア混焼が果たす役割を改めて検証する必要性を示している。再エネ、蓄電池、電力系統の増強など、すでに商業的に実証された技術への投資を優先することで、日本はより費用対効果の高い形で脱炭素化を進めることが可能となる。同時に、エネルギー安全保障の強化や、企業および家庭の電力コストの低減にもつながる。

Read this briefing note in English: Japan’s ammonia co-firing strategy constrained by cost, supply, and timing

Walter James

Walter James is an Energy Finance Specialist at IEEFA with a particular focus on LNG, renewables and energy storage, and data centers in Japan.

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