IEEFAのコスト試算によれば、ウッドサイド社のブラウズ・ガスプロジェクトは、国内外問わず競争力に欠ける可能性が高い。
ブラウズガスは既存の国内ガス生産コストの4倍になる可能性があり、産業用ガス需要を押し下げる恐れがある。西オーストラリア州のエネルギー安全保障の観点からは、より安価なLNGフィードガスを国内供給むけに振り向ける方がより適切な解決策となり得る。
ブラウズLNGは、供給過剰な世界市場では買い手確保が困難となる可能性がある。カタール産LNGの6 割高くになる可能性があり、アジアにおける石炭からガスへの燃料転換を通じて新規需要を創出するために必要な価格水準の2倍に達すると見込まれる。
同プロジェクトが炭素集約的なガスに依存し、かつ高コストで信頼性に乏しい二酸化炭素回収への依存は、プロジェクトコストを約9%押し上げ、経済全体の炭素価格を押し上げる可能性がある。
ウッドサイド社のブラウズガスプロジェクトは、西オーストラリア州(WA)の生態学的に重要な海域に位置し、ノースウェスト・シェルフ(NWS)液化天然ガス(LNG)プロジェクトへ供給している老朽化した既存のガス田を代替することを目的としている。ウッドサイド社と西オーストラリア州WA政府は、エネルギー安全保障を確保し、石炭を代替することでアジアの脱炭素化を後押しするために本プロジェクトが必要であると主張している。しかし、投資家、WA西オーストラリア州、そしてオーストラリア全体にとって、同プロジェクトから生じるリスクについてはあまり重視されてこなかった。
ブラウズガス田は50年以上前に発見されたにも関わらず、依然として未開発のままとなっている。これは、プロジェクトの複雑さと高コスト(IEEFAの試算では370億豪ドル超)を反映している可能性が高い。ウッドサイド・エナジー、独立専門家、その他の情報源によるデータを用いた財務モデリングに基づき、IEEFAはブラウズガスのコストを1ギガジュール(GJ)あたり7.80豪ドル、パース到着時のコストを9豪ドル/GJ超と試算している。これは既存の国内ガス生産コストの4倍以上に相当する。このため、ブラウズは競争力を欠くか、西オーストラリア州のガス価格を押し上げる可能性が高い。オーストラリア・エネルギー市場運営機関(AEMO)は以前に、ガス価格が約8豪ドル/GJに達すると産業ユーザーの事業縮小を引き起こし始める可能性があると示しており、ガス価格高騰がもたらし得る影響を強調している。
ブラウズ産LNGも同様に競争力を欠くとみられる。IEEFAの試算では、そのコストは1MMBtu(100万Btu)あたり6.8米ドルとなり、北アジア到着時のコストは約7.8米ドル/MMBtuとカタール産LNGより約60%高い水準となる。カタールは、最終買主を確保する必要のあるポートフォリオ契約分を含め、西オーストラリア州のLNG輸出能力全体を上回る未販売LNGを抱えると広く予想されている。ブラウズLNGはまた、アジアにおいて石炭との競争にも苦戦し、結果として石炭を代替する可能性は低い。国際エネルギー機関(IEA)は、石炭からガスへの燃料転換を促すためには、LNG価格が3〜5米ドル/MMBtuまで低下する必要があると分析しており、これはブラウズのLNG推定コストのほぼ半分である。さらに、世界最大の石炭消費国である中国とインドに関するIEEFAの分析は、LNGが代替燃料より高コストであるため、石炭を実質的に置き換えていないことを明確に示している。

政府が最近承認したウッドサイド社のNWS操業延長には排出量削減要件が含まれており、これにより同プロジェクトの老朽化が進むLNG処理設備(トレイン)2基の継続稼働が不経済となる、もしくはそれらの改修に多額の追加費用が必要となる可能性が高い。その結果、LNG生産量及び収益が減少するだけでなく、単位あたりのLNG生産コストが上昇する可能性がある。IEEFAは、ブラウズ産ガスの処理にNWSのトレイン5基のうち2基が利用可能とする「高コストシナリオ」において、この可能性を考慮している。
また、ブラウズガス田は、二酸化炭素(CO2)の平均含有率が約10%と他の多くのガス田より高く(例えば、スカボローガス田のCO2含有率は約0.1%)、相当規模の排出を伴う。ウッドサイド社の推計では、(排出削減措置を講じず、貯留層のCO2含有率が高いシナリオの場合)ブラウズガス田の開発から生じる生産ピーク年の排出量はCO2換算で680万トン(6.8MtCO2e)に達する。これは、2035年時点のオーストラリアの総排出量の2.9〜3.7%に相当する。
ただし、ウッドサイド社は、セーフガード・メカニズム上の義務である生産開始初日より貯留層から排出されるCO2を実質ゼロにする要件を満たすため、二酸化炭素回収・貯留(CCS)によって排出量の一部を削減する意向を示している。オーストラリアにおいて、同規模であるシェブロン社のゴーゴンCCSプロジェクトはこれまでに32億豪ドルが投じられており、IEEFAは、ブラウズCCS設備はプロジェクトコストを約9%上昇させる可能性があると試算している。
CCSはプロジェクトに伴うCO2排出量減策として提唱されることが多いものの、失敗や期待を下回る歴史がある。ゴーゴンCCS設備は、操業開始以降、目標回収量の半分未満しか回収しておらず、2023-24年度には回収したCO2のうち約3分の1しか貯留できなかった。その結果、シェブロン社は追加コストの負担を強いられており、すでに高額なCCSのコストに加え、追加的にカーボンクレジットの提出を余儀なくされている。IEEFAは、2023-24年度のCO2注入コストを222豪ドル/tCO2と推計している。
ウッドサイド社は、CCSにより上流排出量の47%を削減できると見込んでいる。残余の貯留層由来排出量は全てカーボンクレジットで相殺する必要がある。これは、カーボンクレジットの需要と価格を押し上げ、経済全体の炭素価格の上昇につながる可能性がある。
西オーストラリア州は、群を抜いてオーストラリア最大のガス生産州である。2024年には、ガス生産量は約3,350ペタジュール(PJ)(上流採掘に自家消費された分を除く)に達しているものの、国内市場向け供給は約418PJにとどまった。
もっとも、既存の成熟ガス田における生産減退は同州内のガス供給に影響を及ぼしており、AEMOは2030年以降のガス不足の可能性を警告している。しかし、その不足規模はLNG 総輸出量や将来の推定未契約 LNG量と比較すると小さい。例えば、IEEFAの試算では、AEMOが予測する2034年のガス不足量である約70PJ は、未契約フィードガス推定量の12%、全LNG輸出のフィードガス量の4%に過ぎない。政府は、高価になる可能性のあるブラウズ産ガスに頼るのではなく、スポットLNGとして輸出される予定の一部ガスを国内市場に振り向ける政策措置を検討する余地がある。これにより、西オーストラリア州におけるガス生産コストとガス価格への影響を最小限に抑えつつ供給懸念に対処できる可能性が高い。

IEEFAはまた、LNG輸出業者が国内市場への義務を満たすために供給する必要のあるガスの量をAEMOが考慮すれば、予測される不足はさらに縮小する可能性があると考える。同州のガス留保政策では、LNG輸出業者にはLNG生産量の15%を国内市場に供給する義務が課されているが、西オーストラリア州議会の調査では、僅か8%しか供給されていないことが明らかになった。このため、LNG生産者は今後数年間で15%を上回る供給を求められる可能性があり、これはAEMOが仮定する供給予測量を上回る(AEMOは一律で推定LNG輸出量の15%と仮定している)。
加えて、とりわけ発電や産業プロセスにおいて、西オーストラリア州では費用対効果の高いガス需要削減の余地がある。それには、電力系統およびオフグリッド電力システムへの再生可能エネルギーの迅速な導入や、アルミナ生産の電化(初期段階には政府の支援が必要)などが挙げられる。
さらに、ブラウズはアジアのエネルギー安全保障を支えるためにも必要ではない。世界的に、LNG市場では前例のない勢いで新規供給が増えており、2030 年代初頭までに LNG 生産能力は60% 増加する見通しである。一方、LNG需要の伸びは依然として不確実である。IEAは、最も移行が緩やかなシナリオであっても、既存および建設中のLNG生産能力で2040年までの世界のLNG需要を十分に満たすと予想している。より短期的には、相当規模の供給過剰が見込まれ、追加生産能力がすべて吸収された場合でも、価格はブラウズ・プロジェクトの推定コストを大きく下回る可能性がある。
本報告書の分析は、ブラウズ・プロジェクトがもたらす便益について重大な疑問を提起するものである。同プロジェクトは、ガス利用者へのガス価格負担を引き上げるとともに、排出量を増加させる一方で、エネルギー安全保障にも、アジアの石炭代替にも寄与しない可能性が高い。
本報告書の分析結果の根拠となるパラメータおよび仮定の詳細については、技術付録をご参照ください。技術付録を読むには、以下をクリックしてください。